ハロワコーヒー
喫茶店とかスタバでコーヒーを飲むこともなくて、外でお茶をする=ハロワカフェ、みたいになっている。ハロワのコーヒー一杯50円。砂糖ミルクコーヒーも増量というちょっと贅沢に仕上げる。ハロワラテ、なんてボクが呼ぶのは普通の自動販売機の、紙コップで出てくるあれ。
ハロワのロビーはいつも混雑していて、おとといは検索をするのにも行列が出来ていて、入場整理券を発券するという騒動になっていた。その行列を横目でみながらハロワカフェ。座る場所もないので、カフェのお客は所在なく表の風景を眺めていたり、紙コップの中身を確認していたりする。タバコを吸いたくなるような空気や時間の質量で、鯨が打ち上げられた海岸の風景を思い出させる。
春だというのにまだ厚着のままで、それは寒の戻りなんてことではなくて、時間が停止している彼ら、失業者特有の鈍感さなのだろう。もちろんボクもその「彼ら」なのだけれど、その時間と言う明白なものから隔離されてしまっていて、すえた匂いまでも、湿気たジャンパーから滲み出ている。
雪崩で亡くなった人は春、ゆっくりと溶け出して、ゆっくりと腐敗してゆくのだ。ただ魂だけはそこにある。もう溶け出すことはない。なんて彼らを見ながら考えていた。そうして気持ちも萎えてしまってハロワラテだけを飲んで家に戻ってきた。
昨日も同じようなもので、それでも列が短かったので、おおよそ1分20秒あたりで無事に入場することが出来た。求人を検索する。新着情報以外は、もう見慣れた風景になってしまっていて「求人票を見る」ボタンを押さなくても、会社の所在地や条件、資格に休日、試用期間の有無、ボーナスに昇給、なんてことは憶えてしまっている。
3ヶ月が有効期間なのだけれど、1月5日に出された求人票は今月末が掲載期限で、それを過ぎると画面から消える。新たに求人票を提出しなおすか、諦めるか、それとも更新を続けて年中出し続けている企業もあるのだろうけれど。その3ヶ月が、たぶん、普通の失業者にとっても有効期限なのかもしれない。
と、ボクに与えられた30分と言う閲覧時間を少し過ぎたところで「最初にもどる」ボタンを押して閲覧終了。ちょうど一本テレビドラマを観た感じがした。それからハロワカフェに行って、いつものハロワラテを、いつもの場所で飲んだ。
いつのも人たちがやっぱり所在なさげにそこにあった。置物になろうとしているのかもしれない。そういう強い意志があるのかもしれない。と思った。それからまたハロワを後にした。家に帰る途中に少し寄り道をした。公園にはマーガレットが咲いていた。