トヨタ新体制スタート「嵐の中の船出」

昨日の株主総会で正式に豊田章男新社長への大政奉還が行われましたね。この国は自動車産業に支えられている、といっても過言ではなくて、経済も雇用も文化も全て自動車産業次第だと、今の経済状況、最悪の雇用状況を見ると、言えると思います。
トヨタなくして日本なし、なのでしょう。
燃料の問題を克服すれば自動車は存続し続けるのだし、電気自動車になったときに、あるいは電池メーカーが自動車を独自に作りシェアを伸ばす予感もあったのですが、トヨタは電池メーカーを凌駕する電池を作り出すのでしょう。パナソニックと縁を切っても大丈夫ということです。
大政奉還の時期の問題が語られますが、ボクは前にも書きましたが、ベストポイントだと思います。この時期、新体制でのスタートがマスコミで流されるという宣伝効果は計り知れないものがあるのでしょうし。それは自民党や民主党の党首選と同じで、(政治や経済が)悪い時期の「変化」は「良い事」なのですから。
売れているプリウスがさらに売れるということです。この時期だから大政奉還は行われなければならなかったのです。changeなのですから。そして章男社長は就任演説でオバマ大統領張りに、過去の栄光と失敗、現在の置かれている位置と、改革による明るい未来を説きます。

このように、トヨタは、いくつもの困難を乗り越えてきました。それを可能にしたのは、「お客様第一」「現地現物」のクルマづくりと、時代の変化に合わせ、「技術革新」や「生産性向上」に、全世界の販売店、仕入先を含むトヨタグループが一丸となって、取り組んできたからだと思います。

ここで新社長が言う「いくつもの困難」とは
1・1950年の争議
2・1970年代には、公害問題やオイルショック
3・1980年代には、通商問題や輸出の自主規制
の3つです。
その3つの困難の後に、2003年頃からの「年50万台を上回る、大変な勢いで拡大を続けました」と締めくくる演説の中には、スッポリと先日からここで書いている1Q94年のことが抜け落ちています。まるで、その年がなかったかのように。
この素晴らしい演説には、労働者に対する気持ちがない、とボクはその部分で感じました。
そして演説は3つの「いくつもの困難」と「2003年からの発展」を言って「これからやるべきことは明らかです。」と、未来を語り始めたのです。演説としては「明らか」な根拠に乏しいものになってしまったとも思います。そして、労働者、関連企業への愛をまったく感じさせないスピーチになってしまいました。
故意に飛ばした「1990年代」にこそ、労働者や関連企業の「いくつもの困難」があったのです。CCC21や派遣労働者の増加、過労死問題、あるいは先日から話題にしている自殺。コストカット(トヨタの利益)のために関連企業や、非組合員にとっては「困難な時代」だったのです。
新社長は「これからやるべきことは明らかです」の後にこう続けます。

「クルマづくりを通じて地域社会に貢献する」という創業以来の理念を、改めて共有し、トヨタが苦難の時にも大切にしてきた考え方を実践することです。

1期でも早く、利益をあげて、納税できるようにすることが、ドン底からスタートする、私の最初の目標でもあります

と「納税」のために「利益をあげ」ることを、高々と宣言したのです。
それは、まさに大政奉還という一大イベントに相応しい愛国心に満ち溢れた言葉、錦旗を掲げたかのようにボクには思えました。その錦の御旗の前にさらなる利益追求が行われるとしても、誰も反論はできないのです。そうすることは朝敵になるのだから。
その部分を聞いて、ボクはオバマ大統領の演説が思い出しました。

我々米国人一人ひとりが、自分自身や国家や世界に義務を負っていることを認識し、こうした義務を嫌々ではなく、喜んで受け入れることだ。

そう我々は納税という義務を負っていることを認識しなければならないのです。どういう雇用形態であろうが、労働条件だろうが、納税の義務を喜んで受け入れなければならないのです。トヨタの利益は国家の利益なのです。いかなる方法を使おうと、どれほど労働者が辛苦にあがこうと、国家の発展利益のためにはしかたない、ということです。国民としての義務という当たり前のことを再認識させた演説でもあるのです。
ボクたちは、労働者の権利だとか、労働条件の改善、格差の是正なんて、反国家的発言を昨年9月から大々的にやってきました。でもそれは国家の利益と矛盾する行動だったのです。ボクたちは失われた1990年代のような状況を、もう一度喜んで受け入れなければならないのだろうと思います。トヨタなくして日本なし、なのですから。自動車産業なくしてこの国はありえないのですから。その前に「納税」しなければならないのだから。
さらに新社長の演説は続きます。「お客様を虜にするクルマ」という陳腐な表現でこれからの車つくりを説きます。いえそれは陳腐であればあるほど、演説の目的が達成されるように計算されているのです。「義務」への再確認になっているのですから。我々国民は、国家のために虜囚となりエコ減税だろうが、ETC割引だろうが、派遣法だろうが、なんだろうが受け入れなければならない時代がやってきている、ということです。もうすでに「虜」なのです。
大政奉還は確かに行われたのだろうと思います。トヨタなくして日本なしなのだから。
結論を急ぎます。
#もうあきているだろうし…。
だから、トヨタ車を乗らなければならないのです。トヨタの利益は国家の利益なのですから。そこだけを新社長は説きました。あとは「実践していくための経営の方向性」です。経営の細かい部分です。大政奉還というのは、トヨタ内部だけではなくて、実際にトヨタが経済(納税という国家基盤)という国の主体になのだから。そこをキッチリ宣言したのが今回の演説だったと思います。トヨタ主体宣言です。
あまり面白くない演説でしたが、トヨタの車は面白くなって欲しいと思っています。なにか変わるといいのですが、雇用問題や「現場に近い」という現場の人たちのことにはあまり関心がないのかな、と思いました。しかし、株主向けの演説なので、それもしかたないかと思っています。
社長就任おめでとうございます。
まずはご挨拶まで…。
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トヨタ新体制発表時の写真

5件のコメント

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    combiさん、こんにちは。
    どうなんですかね。
    インサイトが売れた理由にもトヨタ嫌いの人が増えたのだろうと思いますし。誰がなろうと、という諦念みたいなものがあるのも確かなのかも。
    というか、国営企業になった風もありますし。
    ボクが残念だったのは、ここにも書いたのですが、労働問題についての反省とか将来を語らなかったってことですかねえ。
    撤退どころか、全てそちら産にするということも。食料もそのうち。ユニクロ化するのではないかと思ったりしていますが。

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    これからトヨタは奥田体制以前に戻れるのでしょうか?
    http://www.nikaidou.com/2009/06/post_2966.php
    もっとも、一回失った信頼は、失う迄の期間の2倍以上かけても元に戻れるかどうかはわからないのが常ですので、期待は出来ませんが・・・
    それにしても、車を金儲けの道具としてしか考えないようなメーカーになってから久しいので、ユーザーにインパクトを与えるのは少々のことでは出来ないでしょうから、大変です。
    まずは中共から撤退するのが先決だと思いますが、どうなんでしょうね?

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    >元エンジン製造さんへ
    ども。
    そうですねえ、期間工600人分?根拠はないですけど。それでも新社長は報酬の3割を返納するのだとか。ま、3割引きでも、額が違いますけれど。それにどうせブーメランのように返ってくるのでしょうが…。
    >hiroさんへ
    そうですか。ありがとうございます。
    三重県のことをちょっと聞いたのですが、失業対策に数十億円を拠出するのだとか。他の県も同じで、生活保護費、失業対策費など、税収が減っているところへ、支出は増加するので、苦悩なのでしょうね。
    雇用の問題をどうにかしないと、自治体の存続にも関わるのだろうし。治安の問題もあるしねえ。

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    6月30日のクローズアップ現代で、
    失業率悪化 自治体の苦悩(仮題)
    という番組が放送されるそうです。

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    この6人の年間配当金は合わせて幾らぐらいだろう??

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