豊川市家族5人殺傷事件の現場をゆく

明治22年の町村制施行に伴い33村で発足した宝飯郡は、平成20年に音羽町・御津町が豊川市に編入してからは小坂井町だけの一郡一町という珍しい行政区分になっていた。
その宝飯郡小坂井町も今年2月の豊川市との合併によってついに消滅することになった。今回の事件も合併以前に起きていたら「小坂井一家5人」とか「宝飯郡一家5人」なんていう事件名になっていたのだろうけれど、合併のおかげでその歴史に残る不幸な事件に名前を残さなくてよくなったのだから、合併の功であるかもしれない。

愛知5人殺傷「ネット依存」で親子トラブルか : 社会 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)
愛知県豊川市の会社員岩瀬一美さん(58)方で17日未明、家族5人が刺され、2人が死亡した殺傷事件で、逮捕された長男の無職高之容疑者 (30)が父親の名義を使ってインターネットで高額な買い物をし、親子間でトラブルになっていたことが、岩瀬さんの親類への取材でわかった。
高之容疑者は一日中、部屋にこもってネットゲームばかりしていたといい、豊川署はネットへの強い依存が動機に結びつい た可能性があるとみている。

こういう事件が起きると、いまだに「ネット」ということと結びつけるのも、少しアナクロニズムのようにも感じる。だって、多くの人たちが「ネットへの強い依存」をしているし、依存というよりも、もうネットなしでは生きていけないような、共存状態にあるのだから。「テレビへの強い依存」とか「雑誌への強い依存」なんてことは決して言わない。
こうして書いているボクも、アマゾンやヤフオクでかなりのものを買って、情報の8割近くをネットで獲得し、そして管理もされている重篤なネット依存症なのだろうから、何か事件を起こしたとしたらきっと「ネットへの強い依存が動機に結びついた」と言われるのだろうと思った……。
小坂井町はちょうど1週間前の4月9日、10日、11日と、菟足神社の大祭(風まつり)だった。

豊川市役所公式ウェブサイト:風まつり
4月の花のころ、いにしえより伝わる伝統と格式の春まつり。
山車あり、御輿あり、神楽あり、そして、若衆が精魂かたむけるのは風まつりの名物、音と光の大煙火である。
平成22年の風まつり(かざまつり)は、4月10日(土)・11日(日)に 行われます。

風まつりと事件とは直接関係ないのだけれど、お祭りや春の陽気なんて「明るさ」「華やかさ」という感じが容疑者にとっは、彼の生活にとっては、嫌悪するものだったのだろうと思う。
孤独感なんてのもはそれを感じる人の周辺と反比例する。冬枯れた風景の中、人々が哀しみの中にあれば孤独は感じにくい。逆に多くの人が楽しそうにしていて、本人だけが部屋の中にいれば、たっぷりと孤独を感じてしまう。
木の芽時期に精神を病む人が多くなる理由はそういうことだ。周辺と自己の懸隔、それが自意識を強くする。自意識が時として精神を蝕む。強迫観念、被害妄想、時として「自分の中の誰かが殺せと命令した」なんてことになる。
ネット接続を解約されたというよりも、自分と同じ場所へ引きずり込んだ、そういうことだと思う。そうすれば同じ孤独の深淵にいることになる。「自分だけ」ではなくなるということだ。
愛知県豊川市の家族5人殺傷事件からは「引きこもり」「インターネット」のキーワードが浮かぶ。
「引きこもり」と「インターネット」の因果関係なんてのは「引きこもり」と「読書」でも同じことだと思う。「インターネット」が要因ではなくて、問題は「場所」なのだ。
事件の起こった数時間前に、ボクはタクシーでその近くを通った。そして数時間後、またその現場を通った。一週間前はお祭りで賑やかだったこと、通行止めで迂回したこと、なんかを思い出した。
週末の住宅街には静寂が立ちこめていた。 そしてそれは、たぶん、容疑者が望んでいたものだったのだろうと思った。
西小坂井駅の踏切
西小坂井駅の踏切

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA