交差点の中の子猫

その猫は死んでいた。たしかに死んでいて、瀬上北交差点の中央分離帯、少し左車線側にあった。それを避けようとする車のために交通渋滞がおきていた。夜見たその死体は次の朝にもキチンとその場所にあった。顔は相変わらず豊川の方を見ていた。
れき死、そして走行車線側ならば少しずつアスファルトとタイヤに吸収されて何がなんだか分からない姿に変化するのだろうけれど、はねられ絶妙な場所に着地したものだから、12時間ほど過ぎた国道の上に、最初見たときと同じようにキチンと置かれていた。少し腰から下は潰れていたのだけれど…。
そういった猫は、いったいどうやって葬られるのだろうか。下半身が皮だけになって、道路にへばり付いた黒猫は、交通量の多い国道から拾い上げられ、火葬して埋葬されるのだろうか。そういった無縁猫の墓地があるなんてことを聞いたこともない。
きっと火葬も埋葬もしなくて、「チッ」なんて言われながらゴミ袋に入れられ生ゴミの日に捨てられるのだろうと思う。そして残飯や紙おむつやお菓子の袋なんてものに混じって高温焼却されて灰になるのだろう。
「次の信号を左折したところで停めてください」というお客さんの声が聞こえた。ボクは「はい」と言って バックミラーを見た。そして方向指示器を点け、ゆっくり左へ曲がった。雨の予感がした。ドアを開けたとたん湿った冷たい空気が入ってきた。
雨が綺麗サッパリ黒猫の残骸を洗い流すのだろうと思った。それだけのことだと思った。
雨の豊橋駅前
雨、豊橋駅前

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