殴られる

電車やバスと違って決まったルートや運賃がないタクシー。乗客とのトラブルもそのルートや運賃に起因するものが多いように聞く。ルートも近いから良いというものではなくて、お客様の好みというものもあって「どうしてこっちを通ったんだ」と言われることもある。「こっちのほうが近いもので」なんて言っても、お客様にとっては遠かったり、「人が多い道路だから危険だろ」なんてリスクのことを想定される人もいるから難しい。
告げられた行き先に行ってみたら該当する住所が無い、なんてことはボクは経験したことがないのだけれど、きっとそういうこともあるだろうと思う。例えば、企業が撤退したり移転した場合。昨日まであったのだけれど、今日はなくなっているということも当然あるだろう。
ドライバーが地理に関しての情報をアップデートしているか、というと、たぶんしていないと思う。「どこどこの何々さんが引っ越した」なんてのを逐一毎日情報の更新できるかというと、不可能だろうし…。毎日新聞の慶弔欄を見て「どこどこの何々さんがお亡くなりになった」なんてことを調べて対応しているかというと、それも無理だろうし…。

「暴行容疑で福岡県職員逮捕 タクシー運転手殴る」:イザ!
同署によると、榎田容疑者は容疑を否認。博多駅からタクシーに乗り行き先を告げたが、該当の住所がなく目的地に着かないことに腹を立てたとみられる。当 時、酒に酔っていたという。

この事件も「該当の住所がない」のだからしかたない。丁目、番地まではあったとしても、建物がなかったりするだろうから、運転手にどれほどの過失があるのだろう?住所がないことを知っていたというわけでもないのだろうから。
例えば「平川本町一丁目一番25号まで」と告げられて、住所が無いと即答できる運転手がどれほどいるだろうか。とりあえず平川本町一丁目を目指す。そして近づいて来たら一番25号を探す、あるいはセンターに聞くという方法を取るだろう。そこで25号がないことに気がつく…。そして「お客様、その住所は存在しませんけれど…」となる。そしてお客様と話して個人名なり企業名で目的地がどこかを探すことになるだろう。そう思う。
住所があって建物や会社がないということならば、容疑者も諦めがついたのだろうと思う。しかし、その住所自体がないのだからどうしようもなかった。どうしようもないことに対して人はどうしようもない怒りを感じるものだ。例えば最終電車を乗り過ごして自宅まで遠距離を帰らなければならない時なんてのも、その怒りが自らに向いて「ちくしょー、オレ何やってんだよ」となる。
ただ、その自らに向いた怒りの矛先が急変する場合も多い。「他人のせいにする」 という責任転嫁を人はやってしまいがちだ。自分の過失を運転手の過失にすり替えることなんか朝飯前になる。「それぐらい知っとけよ」とか「そんなことも知らないで金取るのか」とかとか……。
羞恥心も怒りに変わる。逆ギレなんてのもそうだ。 どちらも怒りは弱者に向かう。けっして強い者には向かわない。
決まったルートや料金、そして目的地もないタクシーだから、常にそういったトラブルは起こり得る。料金も道路の混雑状況や信号機によってワンメーターなんてすぐ違ってくる。お客様に殴られるなんてことはこの事件だけではなくて、たまにある。殴られないにしても罵倒されたりすることは毎日どこかで起きているのだろう。
そういったトラブルをなくすには、ナビを利用したり、お客様と積極的に会話して良好な関係を短時間で築かなければならないのかなあ、なんて思っている。そう考えていると、やっぱりタクシードライバーは難しい。なんだかやっぱり憂鬱になる。接客だけでもたいへんなのに、地理に運転……。命がけの仕事の割には…。
なんて考えながら、休日も終っていくのだよ。
六条潟大橋から三河湾
六条潟大橋から三河湾、そろそろ夕陽

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