ブンナ

ブンナとはアムハラ語(エティオピアの言葉)でコーヒーのこと。エティオピアはコーヒー発祥の地とも言われている。カフェという地名もある。街をあるけばそのブンナを飲ませてくれる店(喫茶店だけれど、ちょっと違う)がある。そんな店をブンナベッドという。(ブンナ=コーヒー、ベッド=部屋とか家)
ブンナベッドでは食事が出来たりお酒が飲めたり、隣接されたホテルに宿泊出来たり、そこのメイドさんを買春出来たりする。全ての欲望がそこで充足される場所なのだ。一杯のコーヒーが10円、メイドさんが一晩500円なんて店もある。
エティオピアのコーヒーは、小さな臼で搗いてパウダー状にした豆を土瓶で煮る、その上澄みを小さなカップ(中国製のウーロン茶を飲むようなカップ)に入れて飲む。砂糖だけではなくて塩やバターを入れて飲んだりする。もちろんミルクを入れたりもする。ブンナべワタタとかブンナベマキヤート、ブンナベシャイ(コーヒー紅茶)なんていろいろな飲み方がある。
カート(quat)という覚せい作用のある葉を噛みながら一日中そのブンナベッドにたむろしている男たちもいる。大麻とか芥子のように加工して使用するのではなくて生のままの葉をクチャクチャと噛む。それも大量に噛む。苦い。それでも青汁なのだから健康に良いのかもしれない。
ランチタイムには食事客で賑わう。近くの工場で働く工員がやってくる。タクシードライバーは昼間からビールを飲んでいる。しきりに股間を掻いているのは毛じらみにやられているからだ。その手でインジェラをちぎりワットに付けて口に運ぶ。
裏庭では山羊が客の残飯を食べている。その乳こそ店で使われているミルクだ。そしてやがて頸動脈を切られ、皮を剥がれ、今毛じらみ男の食べているワットの肉となる。ニワトリとて同じこと。ジブ(ハイエナ)の肉を使っていたとして店主が逮捕されるという事件もあった。
そんなブンナベッドには欲望が渦巻いている。コーヒーの香りは欲望の香りなのだ。それはなにも現地の人たちだけではなくて、そのコーヒー豆によって潤う人たちにとって同じなのだ。エティオピアという国自体がブンナベッドになっている。もちろん安く買いたたいているのはボクたち先進国のコーヒー消費者なのだけれど…。一杯10円、一晩500円なんて信じられない値段で買われ、そして売られてゆく。そしてスタバやドトール、あるいはネスレや缶コーヒーとしてボクたちはそれを口にしている。
どれほどODAで金をつぎ込もうが、どれほど多くの人たちが技術協力で行こうが、毎年24時間マラソンに涙を流そうが、エティオピアは豊かにはならない。1985年、あの年から、いったい何が変わったというのだ。1985年、あの年から、いったいどれほど人々の暮らしが豊かになったというのだ。相変わらず人々は飢え餓え凍え哀しみの底にある。
いや、まて、そのエティオピアの人々が豊かになるどころか、この国に暮らしているボクたちが貧困にあえいでいるののだ。エティオピアの労働者はコーヒー豆を作るために奴隷のように使い捨てられて、この国の若者は車を作るために非正規として使い捨てられている。どこが違うというのだ。
あのアジスアベバにはコーヒーの香りがしていた。そしてこの街には車のまき散らす排気ガスの香りがする。より高品質なコーヒー豆のために。より高品質な車のために。
いや、まて、winwinなんてことは絶対起こらない。どちらかが、あるいはどちらもが寄生するのだ。ボクたちが安くて良い製品を欲しがれば欲しがるほど、どこかで安くて良い労働力を必要とする。缶コーヒーが10年20年前と同じ120円で買えて、そしてそれがその10年20年前よりも数倍高品質になっているとしたら、誰かが数倍の哀しみを背負っているのだ。
世界は共倒れ状態に向かっている。世界の幸せの量は一定なのだ。100しかない幸福を、今までは北側の人たちが独占していただけのことなのだ。100が120にはならない。
いったいアフリカへの援助は効果があったのだろうか。あるのだろうか。多くの金と物と人を注ぎ込んで、彼らの生活は豊かになったのだろうか。ボクたちの生活は豊かになったのだろうか。街にはホームレスが溢れ、ハロワには失業者が列を作る。まるであのエティオピアみたいではないか。
缶コーヒー
缶コーヒーのネーミングも豊かになった。そのうち貧困ブレンドなんてのが発売されるに決まっている。
風邪は治ったようなんだけれど…。
「生きる」ということに対してそれほど欲はないのだけれど、熱や痛みは避けたいのだからけち臭い。生きたい生きたいという身体の卑しいことよ。

1件のコメント

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    風邪は治っても身体は直ぐには回復しませんから、ボチボチ動いてくださいね。
    そのコーヒーも豆が値上がりだそうですね。汗を流して働く人達の人件費が上がる事が理由なら致し方ないですが、「駆け引きの代償」では釈然としないものがあります。
    そういう私も、ちょっと値上がりしたら買い控え、安さを求めて東奔西走…。経済には良くないのでしょうけど…。
    でもそうでもしないと暮らしていけませんもの。
    コーヒーも少し薄くしなければ…。

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