ルネ・シャール

中日新聞の片隅に岡井隆さんのコラムを見つけた。
新聞と言うのは隅々まで手を抜くことなく文字を埋めてゆくなんとも気の長い作業だなあ、なんてあらためて感心した。そしてその短いコラムに心を動かされた。
昨日の朝刊の「けさのことば」にはルネ・シャールの詩が引いていた。
「語るかわりに口籠り、断言する瞬間に赤くなる人々の想像力を輝かせよ。」
そして

しゃべろうとして口ごもってしまう。断言した瞬間顔赤らめてしまう。いずれもその人の想像力の豊かさのため、自分の言葉や態度に傷つく結果だ。こういう人たちはこのごろ少なくなったみたいだ。

とシャールの詩のあとに岡井さんが書いている。
たしかに「そういうひとたちは」このごろ少なくなったように感じる。「自分の言葉や態度に傷つく」ことは少なくなったのだけれど、そのかわりにその言葉や態度によって人を簡単に傷つける時代になってしまっている。
現在は言葉が氾濫している。声帯を通して音として現出される言葉は減っているのだろうけれど、ボクたちは文字としてこれまでの数倍、数十倍の言葉を語っている。そして見えない人までも相手にしなければならない時代になってしまっては、ボクたちは自分の言葉に傷つく以前に、あるいは自分の言葉に傷つかないように、その言葉によって相手を傷つけるようになった。言葉が狩りの道具となってしまい、その鋭利さとか、その巧妙さ、そしてその量がボクたち人間そのものの度量衡としている人も多い。
そうして、目の前に現出された「語り」だけを信じるようになって、現れなかったものには目も向けなくなった。そういう余裕さえなくしてしまった。問題はそこにある、と思う。行間とか間(ま)なんてものについても、コスト論を適応して無駄だなんて考えるに至っては、言葉なんてものは記号による数式にしかすぎない。そしてその数式の結果を数字としてだけしか判断できなくなった想像力の欠乏こそ問題なのかもしれないと思うのだけれど。
中日新聞 けさのことば

5件のコメント

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    自由共産党を結成しました。
    ともに戦わん!

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    期間工の母さん、こんにちは。
    確かに「かたちばかり」という感じですね。
    3年目ですか。とても長い時間が息子さんにとって、プラスになっていればいいのですが…。
    登用されることがプラスだとも限りませんしね。3年という時間が何らかの形で認められる社会であってもいいのですけれど。
    まあ、それでも、問題は生き方だったりするのでしょうし。

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    はじめまして。
    息子が期間工をやっています。
    今年3年目で雇い止めになります。かたちばかりは社員登用試験を受けますが、今年がラストチャンス…本人はあまり悲惨さはないですが、親としてはやるせないです。
    とにかく、暖かい春を待っています。

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    名古屋の短歌好きさん、ありがとうございます。
    まだまだ勉強不足で、恥ずかしいかぎりです。またコメントを御願いします。

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    笠山さんは岡井隆さんにも目を止められているって驚きました
    プロレタリア短歌出身で今は宮廷歌人の岡井氏、色々言われてますけど、いい作品も多いです
    というよりも笠山さんの守備範囲の広さ、教養の高さにはいつも脱帽しています

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