彼岸

彼岸花、豊川河川敷
諸行無常 是生滅法 生滅滅已 寂滅爲樂
彼岸。
しみったれた夜のすき間に、しみったれた男がちょこんと座って、しみったれた酒を飲む。
秋刀魚を買った。例年より高いと言っても、一尾100円もしない。頭と腸を抜きトレーに乗せられて売られているものを買った。あの内臓の苦い味が好きだという人を想い出した。
幼い頃、子どもの頃、秋刀魚を食べた記憶がない。海辺の町にはイワシやカマスやアジやサバなんて地場で水揚げされる魚が溢れていて、わざわざ遠くから運ばれてくる秋刀魚を食べる必要もなかったのだろう。
酒を飲むようになって、居酒屋なんてところに出入りするようになって、初めて秋刀魚を食べたように思う。250円ほどの値を付けられいた。それをアテに焼酎を二杯飲む。
屋台のおでん屋に小銭を握って歩いて行った。おでんがひとつ70円、焼酎一合200円、厚揚げと大根で二合飲む。
貧しくはあったのだけれど、しみったれてはいなかった。酔うために飲んでいたし、生きるために飲んでいた。栄養失調気味の身体は引き締まっていたし、感覚はいつも張りつめていた。
今はと言えば、何のために酒を飲むのかも分からずに、例えばスープのように酒を飲む。酔った勢いで誰かを口説くこともなく、酔った勢いで自分をさらけ出すなんてこともなく、ただ酒を飲む。
焼酎はあの頃と同じ芋焼酎で、あの頃と同じ匂いがする。秋刀魚も同じくあの頃の匂いがして、あの頃の人たちを想い出す。あの頃の唄なんかを口ずさみ、涙なんかを流している。過去のために酒を飲んでいる。
しみったれた夜のすき間に、しみったれた男がちょこんと座って、しみったれた酒を飲む。
……。
さてと寝るか。

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