手待ち時間、タクシーの客待ちは「労働」か?

手待ち時間、タクシーの客待ちは、もちろん労働である。

駅や待機場で待機(客待ち)している間(手待ち時間)は、居眠りしていようが、車内で弁当を食べていようが、無線で配車指示があればそれに従うし、客がいれば乗せる。

「流し」ではない「車庫待ち」という形態においては待っている時間も会社に拘束されている労働時間なのである。

名鉄四日市タクシー裁判

名鉄四日市タクシーの運転手五人が「休憩時間も配車待ちの状態で時間外労働をしていた」として、会社に未払い賃金と支払いを怠ったことの制裁金合せて約六百万円を求めて起こした訴訟での判決で津地裁四日市支部は会社に二百万円の支払いを命じた。

休憩時間は休憩時間であって労働時間ではない。休憩中には配車指示に従う必要もないし、「休憩」していることを意思表示すれば配車センターもよほどのことがない限り配車することはない。

しかし、判決では「配車待ち」を「休憩と労働の両方の側面がある」として、客を乗せる30分前までを労働とみなす、という判断をした。

この「客を乗せる30分前」というのは配車待ちをしていようが休憩をしていようが一回の客扱いにたいして、その前30分は労働時間とするということだ。

配車待ちの時間は労働であるとともに休憩時間も休憩後30分以内に客扱いがあれば労働になるということだ。

つまり1時間の休憩後すぐに配車があった場合は休憩時間は30分となる。

会社側は休憩中はもちろん、休憩後30分以内の配車については労働時間として扱わなければならない。

それはこれまで労働時間だった配車待ちの時間についても、逆に30分以上の客扱いがなければ休憩時間になるということを意味する、30分ルールというものが登場したことになる。

運転手に不利になる?

となるとこの判例、運転手に有利というばかりではなくて、不利な側面もある。

「休憩と労働の両方の側面がある」ということが法理ならば、地域によっては、あるいは車庫待ち形態の営業においては、会社は運転手に「休憩時間」というものを与えなくても休憩時間が存在するということになる。

「両方の側面」の休憩時間から考えると、運転手にとって労働時間が増える可能性もあるが(それが今回の判決)、配車待ちという労働時間から考えるとその労働時間が減らされる可能性もあるので、けっして運転手に有利なばかりだと言えない。

待つことが仕事です

車庫待ち、配車待ちの業務形態では、運転手は配車があってなんぼなのだ。つまり、手待ち時間が前提の業務形態ということだ。

1回でも多く客を乗せたいと思うのが普通であって、そのために時間を効率的に使おうと工夫する。配車待ちという労働時間に食事や仮眠をしながら順番を待つほうが配車・実車回数は増える。

そのような労働スタイルの中、1日の労働時間の間で実車時間は3割程度だろうか。そして回送3割、残りの4割が、手待ち時間だ。手待ち時間と回送時間を休憩時間と考えている運転手も多い。

拘束時間=10時間(労働時間、休憩時間を含んだ時間)の内容は、

  • 実車時間=3時間
  • 回送時間=3時間
  • 手待ち時間=4時間

ということになる。

その、手待ち時間は、1回が1時間、1時間半待ちなんてことはザラにある。そして5分の実車時間なんてこともよくあることだ。「両方の側面」というよりも、待機時間は休憩時間と捉えている。

ということを踏まえて、運転手はどちらかというと長時間働いていたいのだ。

改善基準告示

客数、客単価、労働時間によって売り上げが決まるのだから、長時間働こうとする。だから労働時間に制限をかけている。

「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」いわゆる「改善基準告示」なんて法律で「長時間労働させないように」している。

放っておけば1日中働こうとするのがタクシー運転手なのだ。

322時間 タクシー運転手の拘束時間322時間というのは、タクシー運転手が一か月間に働ける時間だ。(通常は299時間、車庫待ちなどの運転手は322時間。豊橋市の場合は後者にあたる)20日出勤として1日16時間営業することが…
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322時間 タクシー運転手の拘束時間

それが「業界の実情」であって、名鉄四日市タクシー会社側言う「業界の実情をわきまえていない承服しがたい判決だ」ということなのだ。

「休憩と労働の両方の側面がある」のではなくて、配車待ち、待機中なんてのは休憩みたいなものだ。特別休憩時間なんてものはなくてもいいから、配車があれば配車をしてくれ、というのが運転手の本音なのだ。

30分ルールなんてものができて、そうしてキチンとエンジンを停めて下車して休憩を取るように、なんてことが明文化されるとしたら、それこそ自分たちの首を絞めるようなものなのだし、待機時間も休憩時間としてカウントされるのならば、休憩時間にも配車指示に従わなければならなくなる。

問題の本質

とは言っても、そうまでして働かなければ普通の生活が出来ない。そのうえ、休憩もキチンと取れない。その労働環境こそ問題なのだ。つまり、月に322時間なんて長時間労働しなければ年収300万円いかないような現状こそが解消してほしい。

それは労使間の問題というよりも、実は国策レベルの問題なのだ。論点を労使間レベルにしてしまって「休憩と労働の両方の側面がある」なんてわけのわからない判決しか出せない業界と法曹界の温度差こそが問題だったりする、そう思うんだけれど。

休憩?手待ち時間??労働基準関係法読み物を掲載しています
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休憩?手待ち時間??

ホッチキスは桜餡が嫌いだというけれど、別に普通の餡じゃんね。

GWの街はやっぱり静かだ。例えばセール中のユニクロは、警備員もいらないぐらい駐車場は閑散としていたり…。利用者がいないから、と言って、警備員の労働時間が少なくなるなんてことはない。

2件のコメント

  • そのうち、内職をさせられそうな予感。コンビニ経営を始めたタクシー会社もあって、待機中はコンビニの店員、配車があれば運転手なんてことになるかも。
    まあ、司法なんてのは分かっているような分かっていないような判断をしますから。
    連休おわりましたね。

  • 実際に稼働してない時間は一切給料を払う必要がないとの判断が認められればこれは事実上出来高制や完全歩合制を肯定したことになり今までの労使関係をすべてぶち壊すことになるのではないでしょうか。
    農業漁業製造業などでいえば今日は生産が全くない、小売業サービス業などでいえば今日は売上が全くないから給料は払いません!といった方針が合法になってしまうのですから。
    もしかしたら徹底した実力主義社会が安倍首相率いる現政権の将来的な目標なのかもしれませんが。

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