蜆売り

貧乏暇なし。
勤労感謝の日だそうだ。
仕事があることはありがたい、そのことを考える日なのだろうと思う。確かにあの失業の日々を考えると「ありがてえなあ」なんて言いたくなる。特にボクのような独居中年は職場がなければ社会とは孤立してしまう。
労働を通じて社会貢献を、なんて職業観を持っている/持っていたのだけれど、最近は労働を通じて生かされている、なんて受動的な考え方のほうが重きをなしている。今後もボクのような「おひとりさま」は増加の一途で、職場もこれまでとは違った意味で必要とされる。職場の長屋化、なんて考えている。人には人が必要なのだ。
貧乏暇なし、蜆売り。
落語「蜆売り」の小僧与吉は家族のために雪の日に蜆を売り歩いている。蜆はそこいらの川にいくらでもあって、それを拾っては売り歩いていた。元手がいらないかわりに廉価で取引されていたに違いなく、それゆえ暇がないほど忙しかったのだろう。拾う売るの繰り返し。拾えばいくらかの糧になる。今のボクたちが想像できないほどの凄惨な貧困があったとしても、すがるのは人情しかなかった世の中だった。
与吉だけではなくて、藪入りの亀吉だって、労基法や最賃なんてない仕組みの中で、ただ食べるために働いていた。生きるため、そして親兄弟のため、というキチンとした目的のためであった。社会貢献とか義務、権利なんて、なにかデジタルな符号とは少し違う、本能とか習性、慣習なんてものが、未熟な社会システムの中では絶対だったのだろう。
社会の仕組みが複雑化してゆくと、ボクたちは目的を見失ってしまった。ボクたちは本能なんてものを喪失してしまった。そうして人情なんてものまで経済というこれまたデジタルな符号のものと引換えに簡単に打ち捨ててしまった。
生きるために働く、そのことは変わっていない。普遍だ。働かなければ生きてゆけない、そのことも同じだ。不変だ。
ボクたちはその単純な目的を見失い、誰が家族なのかさえも分からなくなって、あるいは家族を失くしてしまっては、利己的で自己的な生物としての進化を続けている。
職場の長屋化、人には人が必要だ、なんて思ったところで虚しい。この国は国民を孤立化する方向に舵を取っている。もうどうあがいても軌道修正できないほど、ボクたちは孤立化し無縁化している。人の集まる場所としての職場は一部の人たちだけの長屋になっている。
貧乏暇なし、車乗り。
お客様を拾う乗せるの繰り返し。拾えばいくらかの糧になる。そうしてボクたちを待っている人がいて必要としている人がいる。
タクシー業界には長屋的なものがある。なによりもみんな同じだ。派遣社員や期間従業員なんて人たちはいない。なによりも仕事があることはありがたい。そこが業界のもうひとつの存在意義だ。なければならない業界なのだ。
あ、いや、規制強化論を書くつもりではなく、世の中には働ける場所があるということが必要なのだ。そしてそこはみんな同じであることが重要なのだと思う。そしてボクもこうして働ける場所があることに感謝している、ということなのだ。人のために社会があり企業がある。勤労とはそうした意識の上に存在するし、成立する、そう思う。
貧乏暇なし、車乗り。
豊川稲荷

3件のコメント

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    >テルさん、どうも。
    ボクも、定時だとなんとなくウキウキしていました。1直から2直のちょっと長い休日、それも好きでしたが…。
    ハロワ通いが日課になっていました。まあ、失業中はササクレますね。自暴自棄というほどまでにはならないにしても。
    人間関係の希薄な職場ってのが希望だったんですが…。
    >のなさん、どうも。
    男女だと、狭くないかなあ。まあ、それはそれで楽しそうですね。スーパーの駐車場とかではなくて、キャンプ場とか道の駅だと目立たないかもしれないですね。
    前にも書いたのですが、ボクも車中生活にはあこがれている。フリーハウスって感じで。夏は涼しいところ、冬は暖かい九州の温泉地で。
    まあ、愛知は事件も多いですね。それに県外から就職で来る人も多いし。ボクもそのひとりで、きっと「いろんな人」かもしれない。
    ありがとございます。おふたりも、風邪には注意です。

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     確かに、凡人は、暇だとろくな事かんがえませんね…。最近、刈谷の某所に行ったら、車中生活らしき男女(50代くらい)を見かけました。車と車中は、きれいなのに、人間が不自然に汚いというか…。キャンプ生活でしょうか…。(三河ナンバーでした。)何だか、愛知は、失業率
    は低くないですが、いろんな人をみかけます。                   くれぐれも、お体、ご自愛下さいませ。

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    田原笠山さん、こんばんは。今日は勤労感謝の日でしたがトヨタカレンダー通り出勤でした。ですが1直でなおかつまだ定時上がりが続いていますので体は楽です。今年最後の休日出勤がありますが…
    貧乏暇なし、共感致します。私も無職の期間がありましまがその時はあまりロクな事も考えず精神的にも辛かった記憶があります。意外に毎日職場に通って仕事をするって生命線ですね。働ける場所がある事に私も感謝しています。
    来週から12月に入りどんどん冷え込んで参りますが、お体に気を付けて下さい。

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