蒼海に響く鎮魂の潮騒:伊良湖岬に佇む「全国海洋戦没者慰霊碑」
太平洋を一望する伊良湖岬の先端、波の音が間近に迫る遊歩道沿いに、一基の慰霊碑が静かに佇んでいます。碑面に深く刻まれた「君今ここに甦る」という招魂の言葉。美しい岬の風景とは対照的な、激動の歴史と海に散った尊い命への祈りが、この場所には満ちています。
連合艦隊司令長官の遺志を継ぐ:日本の中央・伊良湖岬に建てられた理由
この慰霊碑は、当初、太平洋戦争における機動艦隊戦没者の慰霊碑として企画されたものでした。契機となったのは、昭和41年(1966年)に旧海軍最後の連合艦隊司令長官・小沢治三郎中将が逝去されたことです。
天皇陛下から下賜された祭祀料を、小沢中将の未亡人が機動艦隊生存者の会「潮会」に寄贈。それを基金として、戦没者を悼む碑の建立計画が動き出しました。建立の地として選ばれたのが、日本列島の中央に位置し、英霊たちが眠る広大な太平洋を一望できるこの伊良湖岬でした。
昭和47年(1972年)11月に碑は完成を迎え、翌年10月には高松宮同妃両殿下の臨席を仰ぎ、合同慰霊祭が厳かに執り行われました。その後、昭和49年(1974年)からは毎年11月3日が「全国海洋戦没者合同慰霊祭」の日と定められました。その際、「機動艦隊戦没者慰霊碑」から「全国海洋戦没者伊良湖岬慰霊碑」と改められました。そして、今も多くの祈りが捧げられています。
歴史の重みを伝える碑文と「太平洋戦争激戦地之図」
慰霊碑の正面に掲げられた「君今ここに甦る」の文字は、当時の全国知事会長であった愛知県知事・桑原幹根氏の揮毫によるものです。力強いその筆跡の奥には、戦没者への深い追悼の念が滲みます。
碑の傍らの石の基盤には、「太平洋戦争激戦地之図」と題されたプレートが収められています。地図に記されているのは、太平洋各地の凄惨な戦没者数です。広大な海域のいたるところに刻まれた膨大な数字は、見る者に戦争の現実と悲劇の大きさを無言で突きつけてきます。
また、基壇の正面には「ヤシの実寄せる伊良湖岬」のフレーズで始まる「全国海洋戦没者伊良湖岬慰霊碑讃歌・君今ここに甦る」(原與作作詞、佐伯一郎作曲)の歌碑がはめ込まれており、訪れる人の心を揺さぶります。
悲しみを共にする高松宮喜久子殿下の御歌
慰霊碑にさらなる深い情愛を添えているのが、傍らに建つ高松宮喜久子殿下の御歌碑です。
わだつみの千尋の底に沈みつつ眠れる君等偲ぶ石ぶみ
惜しみても惜しみてもなほあまりあり今しこの世に君等ありせば
深い海の底で眠り続ける戦没者へ想いを馳せ、もし今も生きていてくれたならと痛惜の念を詠まれた御歌は、今も読む者の涙を誘わずにはいられません。
碑の内部には、艦隊戦没者と海洋死亡者の芳名録が大切に収納されています。どこまでも青く広がる伊良湖の海から届く潮騒は、まるでここで甦る英霊たちの声であり、私たちに語りかける切なる平和への願いのように響いています。








伊良湖半島の戦争遺跡マップ
参考文献
公益財団法人大東亜戦争全戦没者慰霊団体協議会【公式】
慰霊 第20号.平成23年1月1日.大東亜戦争全戦没者 慰霊団体協議会.