「いのりの磯道」磯丸の歌碑一覧
2026年5月28日
田原市の「いのりの磯道」に並ぶ糟谷磯丸の歌碑(全70首・68基)を、学校別の選歌、テーマ別の和歌、そして特徴的な歌碑ごとに分かりやすく整理いたしました。
波の音を感じながら、磯丸が遺した優しく深い言葉の世界です。
地元の小中学校が選んだ11首(子どもたちの揮毫による磯丸の歌碑)
当時の渥美町内にあった小中学校(現在は統廃合された学校も含みます)の児童・生徒たちが、自分たちで一首を選び、心を込めて文字を書いた歌碑です。
| 学校名 | 刻まれている和歌(現代の平仮名交じり表記) | 備考(歌の意味や背景) |
| 中山小学校 | 明神の 石のしゃだんで ながむれば おきで漁師が 船をこぎます | 磯丸の処女作。母の病気平癒を祈った伊良湖明神の石段からの風景。 |
| 和地小学校 | よしや身は けがれありとも あらいその 波に清めて 向かう神がき | 荒磯の波で身を清め、神聖な神社の垣根(神前)に向かう真摯な祈り。 |
| 亀山小学校 | ねがわくば 天の神風 人の身に かかるはしかを ふりはらえかし | 当時流行した「はしか(麻疹)」を吹き飛ばしてほしいという、まじない歌。 |
| 堀切小学校 | いろ白は いつ来てみても おゆりさん 浜辺にすめど 色はかわらじ | 奉公先の斎藤家の主婦「おゆり」さんの日焼けした肌を比喩したもの。 |
| 清田小学校 | 朝草に かりこめられて きりぎりす われもなくかや おれもなくなり | 朝の草刈りで草と一緒に刈り込まれたキリギリスの悲哀に満ちた声。 |
| 伊良湖小学校 | 夏ごろも きてだにも見よ 伊良湖崎 すずしきなみの よるの月かげ | 夏着を着てぜひ見にきてほしい、伊良湖岬の涼しい波と夜の月光。 |
| 福江小学校 | ねがわくば ふらせたまえよ 雨つゆの かゝるめぐみの まつのしたくさ | 「雨をこひ奉りて」とあり、雨乞いのまじない歌。 |
| 泉小学校 | みがきみよ 光は同じ たまくしげ ふたみがうらの 貝ならずとも | 磨けばどんな貝(人)でも、伊勢の二見ヶ浦の美しい貝と同じように光る。 |
| 福江中学校 | 久かたの 天津神風 はらわなん 月を見る目に かゝるくもりを | 月を仰ぎ見る目のくもりを、払い去ってほしいというまじない歌。 |
| 伊良湖岬中学校 | ただひとつ やけ野にのこる わがいほは いかなる神の めぐみなるらん | 大火に磯丸邸が、焼失をまぬがれたのは、神の恵みなのだろうか。 |
| 泉中学校 | たびごろも かえりてみれば ふる里は やけ野となりて きぎす鳴くなり | 旅から故郷へ帰ってみると、そこは焼け野原となりキジが寂しく鳴いていた。 |
人々の暮らしに寄り添う「まじない歌」と「暮らしの教え」
病気平癒や安産、家内安全など、磯丸が庶民の切実な悩みを和らげるために詠んだ、現代でいうお守りのような「まじない歌」と、人生の指針となる道歌(どうか)です。
身体・病気平癒のまじない歌
- 【血のみち(婦人病など)が治る歌】めぐりよく 治めたまえよ 子を思う 父と母との 血のみちの神
- 【乳が出る(母乳がよく出る)歌】あまるまで いでよ名におう 千曲川 流れをくみて 育つ子のため
- 【流産よけの歌】はらむ子の 生るゝ月の たつまでは ときなみたしそ みつのしたひも
- 【病いが治まる歌】すませただ 心しきよく すみぬれば 病は水の あわと消えまし
- 【病いにならない歌】人はただ 下を見てゆけ みち直に 上に目のつく かにはよこばい
招福・厄除けのまじない歌
- 【商い繁盛(商売繁盛)の歌】かけねなく うりかうことを やすくせば とくはますます はかりしられじ
- 【目標がかなえられる歌】梓ゆみ まゆみ月ゆみ たゆみなく 祈らば岩も 徹らざめや
- 【さいなんよけ(災難魔除け)の歌】世にひろき 道意にかけゆけば 身にはさわりも あらじとぞ思う
- 【恋する二人が結ばれる(縁結び)歌】ねがわくば なお末かけて ひたち帯 むすぶの神の 恵みまたなん
- 【物覚え(学業成就)がよくなる歌】鳥のあと とめて覚えよ ふみみつゝ 浜のまさごの かず多くとも
人生と心を整える歌(道歌・教え)
- 心から こゝろの鬼に せめられて 身のおきどころなき 人もあり
- ひと筋に かけていのらば あづさ弓 石にたつ天も ありとこそきけ
- こころから 人は神にも 佛にも なせばなる身を しらぬおろかさ
- あおぎうつ 天津み空を 笠にきて ひろき世にすむ 身こそやすけれ
- いわずとも よきもあしきも 人ぞ知る 人はわが身の かがみなりけり
- 天地の 造りなしたる みたまもの 知らでわがみと 思うおろかさ
- まなべたゞ 及ばぬ雲の うえまでも 心かよえる ことの葉の道
- しき島の 道一筋の みしめなわ 心にかけて いのる神垣
- 手にとれず 目にも見えねど 天地を うごかすものは 心なりけり
- 法の水 深き浅きは くむ人の 心のうつわに ぞよる
- 世の中は ただかりそめの くさまくら つゆのひぬまの うたたねの夢
- 何不足なき 世の中に生まれ来て たらぬはおのが 心なりけり
- かりそめの 草のいほりは せばくさも 心はひろき 世の中にすめ
- 今みれば こころの中に 咲く花を しらでたずねし ことをしぞ思う
- ふくままの 風にまかせて あらそわぬ 柳を人の 心ともかな
- いづくぞと 鬼のすみかを たづねれば おのが心のうちに こそすめ
- 世の中の 人と生まれて 孝なきは とびやからすに おとりこそすれ
- 世の中の 人にはおそれ つつしみて わが身のちえを ちえと思うな(※菱形の歌碑)
- 目のはたの まつげのことく ちかすきて 見ることかたき 地獄極楽
- そこふかき 池の汀に 住みいても くまぬうつわに 水はたまらぬ
伊良湖の自然と四季を美しく詠んだ歌
雄大で時に厳しい伊良湖岬の海や波、月、そして季節の移ろいを情緒豊かに描き出した和歌です。
- けさはゝや 氷もとけて むすぶ手に 心も清し 春の若水
- ふる里へ かさねてゆかん 七重八重 きょう九重の 花のにしきを
- うら浪に またたちかえり たびごろも きよきなぎさの 貝やひろわん
- いらこさき あらき波まに みがかれて 光さやけき 玉のことのは
- はずかしい らいごが崎に よる波の 音にのみたつ 名をいかにせん
- 祝うぞよ ふた木がもとに 生いゝでて 雪だつ小松の 千代の栄を(子孫繁栄の歌)
- いくたびも 和歌のうら船 こぎよせて 伊良湖が崎の 波のまにまに
- 冲つ浪 よるともみえぬ さやけさは 伊良湖が崎の 秋の夜の月
- いらこ崎 かいもなぎさに よる浪の あわれと見てや たちかえるらん
- いらご崎 おりたつ浪の しらかさね 夏きにけりと なくほとゝぎす
- いそ千鳥 いらごが崎に ふみのこす あとをしるべに とふ人もがな
- はずかしい らいごが崎の あまのかる いそのひじきを さゝげものとは
- ひきつき おさまるみよの 梓弓 いらごの崎に まつるやぶさめ
- 世にあおぐ 伊勢わたりの 近ければ 伊良湖が崎に かよう神風
- あおぎみる わが心まで 大空に みちこそわたれ もち月のかげ
- 心なきものとは いわじ草も木も かぜのかよえば こゑかわすなり
- 伊良湖崎 よにしられたる 名どころを あらそう人は あらじと思う
- 民は骨 開ける御世は 地紙にて 君は扇の かなめなりけり
- 今もなお その大君の あとゝめて いらこが崎の たまもをぞかる
- 立ちかへり 又もくまじ まつ君か 心のおくの やまの井の水
- 玉もかる いらごが崎の いそ千鳥 あとはまさごに ふみやのこさん
- をみなえし 多かるのべを たづねても 君よりほかに 見る花もなし
- 敷島の 道をしるへに 海士を船 およはぬ君の みきはにそよる
- 春きぬと あまもかすみの ころもきて いらごが崎の いそなをぞつむ
特徴的な歌碑・記念碑
1つの石碑に2つの歌が収められている変則的な歌碑や、歴史的なプレートが残る特別な歌碑です。
一基二首の歌碑(その1:新しい生命の誕生を願う歌)
- 【子のできる(子宝)歌】いのれがし 花の盛りに たねとなる みをばむすぶの 神にかませて
- 【安産歌】うぶ神の 恵みもみちる 汐さいを まちてぞ安く いずるあまの子
一基二首の歌碑(その2:友を伊良湖へ誘う歌)
- 五十五崎 ふかき真砂を ふみわけて といこし君か なせけをぞお思う
- わがともと いらごが崎へ いざなわん 世々に名だかき 人のすがたを
2004年 磯丸歌選 渥美町文化協会プレート付き歌碑
遊歩道の終点、伊良湖岬灯台の傍らに建つ、この歌碑群の歴史のルーツを証明する大切な一首です。
- 【家内安全歌】むつまじく 君もろともに 住吉の 松にちぎりて 千代も栄えん
万葉集の和歌
- ますらをが さつ矢手ばさみ 立向かひ 射る的方は 見るに清し(万葉集 巻一 六一) / 舎人娘子(とねりのをとめ)
小中学校が選んだ磯丸の歌碑・画像












参考文献
安江茂.平成22年.『伊良湖の歌ひじり 糟谷磯丸』.木阿弥書店.
田原市郷土資料館・平成26年企画展図録.『糟谷磯丸 まじない歌の世界』.田原市博物館.
新編磯丸全集 – 国立国会図書館デジタルコレクション.
漁夫歌人糟谷磯丸 – 国立国会図書館デジタルコレクション.