形原・鐘鋳場の北向き地蔵:望郷の念を刻む北向きの祈り
形原町鐘鋳場(かねいば)の静かな片隅に、「南無冝陽救苦地蔵尊」と刻まれた一基の地蔵碑が佇んでいます。この石碑は、一般的なお地蔵様とは異なり、厳かに「北」の空を向いて祀られています。地元の人々からは「北向き地蔵さん」や「鐘鋳場(かねば)の地蔵さん」の愛称で親しまれ、今も変わらぬ信仰を集めています。
信州の空へ馳せた望郷の念と、家族が込めた救いの祈り
この地蔵碑が建立されたのは、今から400数十年も昔のこと。まだ旅をすることが命懸けであった時代、この鐘鋳場から遠く信州まで行商へと旅立った一人の商人がいました。しかし、商人は旅先で病に倒れてしまいます。今際の際、商人が強く心に抱いたのは「形原へ帰りたい、鐘鋳場の土をもう一度踏みたい」という、あまりにも切ない望郷の念でした。
その報せを聞いた残された家族は、無念のまま異郷の地で亡くなった商人の魂を慰めるため、この地に供養の碑を建てました。その際、「自分たちの身内と同じように、旅先で苦しみ辛い思いをする人々をどうか救ってくださるように」との至誠の願いを込め、碑面には「南無冝陽救苦地蔵尊(なむぎようきゅうくじぞうそん)」の文字が刻まれたのです。また、お地蔵様が北を向いているのは、商人が息を引き取った遙かなる信州の地を見守り、その魂を導くためだと伝えられています。
水の音に包まれる静謐な聖地と、今も絶えぬ線香の煙
400年という果てしない歳月が流れた今も、地蔵尊への祈りが絶えることはありません。毎日欠かさずお参りに訪れる地域の人々の手によって、境内には誰でも灯せるように線香や蝋燭が常に絶やさず用意されており、人々の温かい心が境内を包み込んでいます。
商人の切ない願いから始まったお地蔵様は、現代を生きる私たちの心をも優しく包み込み、そして苦しみを除いてくれる慈悲の守護神として、今日も静かに小山川のほとりで微笑んでいます。




鐘鋳場の北向き地蔵の地図
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参考文献
広報がまごおり 2013年9月号(pdf)