たび石:家康の忠臣が旅の無事を祈った拾石神社の霊石
2026年5月7日
蒲郡市拾石町に鎮座する拾石神社(素盞嗚神社)。その静かな境内に、足袋の形をした一メートルに満たない不思議な石が祀られています。この「たび石」と呼ばれる霊石には、戦国乱世を駆け抜けた武将たちの足跡が刻まれています。
深溝城主・松平家忠が寄せた信仰と「たび石」の由来
伝承によれば、天正の頃、深溝城の主であった松平家忠は、浜松城にいた徳川家康のもとへ伺向する際、必ずこの地で旅の安全を祈願したといわれています。家康の忠実な家臣として知られ、日記『家忠日記』を記したことでも有名な家忠。彼が道中の無事を祈った姿にあやかり、いつしか人々はこの石を「たび石」と呼び、自らの旅路の平穏を祈るようになりました。
また、古記録の中には、この石を源義経こと牛若の足跡に見立てた「牛若の足跡石」として記しているものもあります。このように、古くから人々の想像力を掻き立てる存在であったことが伺えます。
草むらからの復活——拾石の人々が繋いだ地域の至宝
時代の移ろいとともに、一時は忘れ去られようとしていた時期もありました。昭和35年発行の『蒲郡風土記』によれば、当時は藪の中に打ち捨てられたような状態にあり、そして「蒲郡新聞」でもその状況を惜しむ記事が掲載されたほどでした。
しかし、その記事をきっかけに拾石の有志が立ち上がりました。そして、石を正しく据え直し、由来を記した解説碑を設置しました。正面に配された石灯篭と、そこへ続く飛び石。現在は、御鍬神社や水神龍神八大龍王神社とともに美しく整えられた場所に祀られています。
地域の人々の手によって再び光を当てられた「たび石」は、今も静かに参拝者の足元を見守っています。






たび石:地図・行き方
参考文献
伊藤天章.『蒲郡風土記』.蒲郡新聞社.昭和51年.
愛知県神社名鑑 – 国立国会図書館デジタルコレクション.