運賃値上げで賃金は上がりません

タクシー運賃の値上げが運転手の賃金上昇になるのでしょうか。今回は運賃値上げと賃金について考えてみます。

というのも、一連のタクシー運賃値上げの理由として「労働条件の改善」を挙げているからです。それは、運賃値上げ=賃上げ、ということです。しかし、そう簡単に行くのでしょうか。賃金制度が出来高制であるため、例えば、11.91%値上げしても、11.91%以上売り上げが減れば、賃金も下がります。

タクシー運賃値上げ後の運行収入を予想してみた

豊橋市内のタクシー運賃が3月20日から値上がりしました。(田原市、豊川市、新城市、蒲郡市を含む尾張・三河地区の運賃値上げです)

改定率は11.91%です。それぐらいの割合で値上げになった、そう考えて良さそうです。詳しくは、次の図と投稿をごらんください。

尾張・三河地区 タクシー運賃鍼灸比較表
図1 尾張三河地区 タクシー運賃新旧比較表

尾張・三河地区のタクシー運賃値上げ その特徴と問題点

ほんとうに賃金があがりますか

値上げ前のままの労働条件と勤務内容、そして需給バランス、全てが同じ条件ならば運行収入が上がり、出来高制なので運転手の賃金も上がります。

しかし「商品の需要量は価格が上昇すると減少し、供給量は価格が上昇すると増加する」という法則があります。価格の上昇=利用者の減少。確かに、ボクたちはそのことを知っています。例えば、サンマの値段が高いと「高級」と思うし、安くなると「庶民の味」なんてことになります。

その値段は漁獲量に影響されるということも知っています。漁獲量が少ないと高値になり、逆に多いと値下がりします。大漁が続くと叩き売られるということも。

ですから、値段が上がると乗り控えが起きる。そうすると、全体として売上が落ち込むのではないかと、ボクたちが危惧するのです。

需要と供給の話

需給供給曲線
図2 需要供給曲線

図2のように、完全競争市場での自由競争下では、供給価格(タクシー運賃)が上がると、需要数(利用者)は減少します。

しかし、国の認可制であるタクシー運賃は一定です。

公共料金の価格と需要の関係
図3 公共料金の価格と需要の関係

そのため図3のような価格と需要のグラフになります。

公共財の料金は図2のような完全競争市場で需要と供給の取引によって調整されません。なぜなら、例えば、水道料金が水不足のために高騰すると、お金持ちしか水を飲めなくなります。電気やガス、そしてタクシーや鉄道、バスといった公共交通も同じことです。

価格弾力性

価格弾力性とは、「価格弾力性とは、価格の変動によって、ある製品の需要や供給が変化する度合いを示す数値」1です。

タクシーは価格弾力性が小さいのではないのでしょうか。例えば、先行した東京や名古屋では、値上げしたのに需要は減りませんでした。

値上げ時期が年末で、繁忙期だったことが理由だという見方ができます。さらに、現在の運転手不足を原因とする供給不足です。価格が一定ですが、実車率(回数)が上昇します。そのため一台当たり一日の運行収入が高くなりました。

そういった年末繁忙期という特殊性を排除したとしても、通院や買い物、深夜早朝の移動にはタクシーしかない人たちも多いのです。その代替手段がないということが価格弾力性が小さい理由です。

また、タクシーはコンビニのおにぎりのように、利用者が多いから大量仕入れする、ということができません。その用意できないということと、需要と供給の同時性や即時性が、供給不足を引き起こし、実車率を押し上げます。値上げがあっても、個々の運転手は儲かるということです。

2016年の運賃改定

いや、そんなお前のよくわからない経済の話は良いから、そういう人のほうが多いでしょうね。そしてボク自身も自信がありません。
では、前回の値上げの時のデーターで考えてみます。

2016年1月21日に運賃改定がありました。

豊橋市 タクシー運賃改定時日車営収年度比表
図4 運賃改定時日車営収前後年比較表

この時は、初乗り700円(1.5kmまで)加算80円(246mごと)から、初乗り運賃を600円にするいわゆる初乗り距離短縮運賃に設定されました。

タクシー値上げ 11月から運賃~タクシー規制について(4)~

運賃値上げと運行収入の関係

結果は、図4日車営収前後年比較表が示す通り、2016年は2015年比において、日車(稼働1台当たり1日の営業収入)は、7月までは高いものになりました。

ところが、運賃値上げの翌年2017年は1月と8月は2016年を超えていますが、前年割れしています。それどころか、運賃改定前年の2015年と比較しても、高かった月は1月、2月、6月、10月だけになりました。

 

 

運賃値上後 年度別月別運行収入比較表
図5 運賃改定後の年度別月別事業所運行収入比較表

ところが、会社全体の運行収入は図5が示すように、2016年は2015年に比べ100.8%の増収になりました。値上げの翌年2017年は2月と5月に多少の減少はありましたが、最終的には前年比(2016年比)約103%増収になりました。

結果的に、運転手個々の運行収入は減少したのですが、事業所全体では増収になったのです。

理由は運転手が増えたことによるものだと考えられます。要するに供給過多が実車率を押し下げたということです。運行収入=単価 × 回数ですから、単価が上昇しても回数が減ったことが原因だと考えています。

タクシーの今

全国的に運転手不足が深刻化し、供給不足が問題化しています。供給不足から運転手ひとりひとりの運行収入は、運賃値上げ前から高い数字になっていました。ボクの記録では10年間で過去最高の日車営収額になっています。

その状況で、さらに年末の繁忙期に運賃値上げが行われた東京や名古屋地区においては、さらに日車営収が伸びていきました。

豊橋市内においても、同じような状況です。しかし、繁忙期ではありません。観光地以外のゴールデンウィークは閑散期になります。さらに事業者は、運転手不足解消に力を入れ始めます。そうすると、同じようなことが起きてきます。

しかし、運賃が上がり、労働条件改善をすると説いても、リスクの高い職業には変わりありません。

まとめとして

二種免許取得要件緩和を始めました。アプリ専用車「GO Reserve」や「GO Crew」も供給不足緩和という側面もあります。そろそろ外国人研修生制度での受け入れも実現されそうです。

そのうち、というか、とうとう自家用有償でUber、もですが、GOCarなんて配車アプリGOを使った自家用有償輸送を考えているはずです。

そうなると、ボクたちはどこへ行くのでしょう。今が、この世の春、なのかもしれません。公共交通として供給不足こそ敵なのです。しかし、供給不足は美味しいんです。

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  1. 価格弾力性

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