地方タクシーの現状と問題点

運転手不足、運転手の高齢化、低賃金、タクシー業界が抱える問題は解消されることなく問題はさらに深刻化しています。地方のタクシー事業ではさらにそういった問題が深刻で、業界内での地域間格差が生じています。そんな地方タクシーの現状を概観してみたいと思います。

地方タクシーの現状

運転手不足と高齢化が問題視されてずいぶんと経ちます。そして、コロナ禍において事業者の倒産廃業、運転手の離職により深刻化しています。

タクシー産業は、まん防などの移動制限がなくなっている現状を踏まえると、すでにアフターコロナ期にあると言えます。そうした中、需要の回復に対して運転手不足により供給が間に合わない、というのが地方のタクシー業界の状況です。

豊橋市内の現状

下の図はToranouva2022年11月9日号のデーターを原に作成した三河地区と名古屋地区表の稼働台当たりの営業収入の対2019年度グラフです。

2022年9月の1台当り1日の営業収入(以降日車営収)は27,161円で2019年比94.0%です。

三河地区、名古屋地区、タクシー1日稼働台当たり実績グラフ 地方タクシーの現状と問題点

東三河南部交通圏の豊橋市では、キングタクシーの閉業により40台のタクシーが減少しました。東海交通194台、豊鉄タクシー42台、ヨシダ交通37台、個人タクシー36台、これに閉業したキングタクシー40台の349台がコロナ禍前の所有台数でした。(キングタクシーは推定、それ以外は現在の中型タクシーの所有台数)

次のグラフは各社のキングタクシー閉業前後の台数シェア率です。もちろんキングタクシー閉業に伴いシェア率が増加しています。市場規模が変化していない、需要数が同じという条件では、台数シェア率の増加がそのまま営業収入の増加につながります。しかし、シェア率が増加したものの、運転手不足が供給数(実働数)を下げているため、営業収入が伸びません。

豊橋市内タクシー会社台数シェア グラフ

台数当たりの営業収入(=運転手の収入)はこの供給不足により伸びています。そのことは次の「日車営収と実働率」で説明します。

日車営収と実働率

運転手の賃金=日車営収×1人当たりの稼働数、になります。稼動数(勤務日数)が同じなら賃金も日車営収にそのまま比例し94になります。

事業者の営業収入=日車営収×総実働数になります。総実働数は実働率×在籍車両数です。よって、在籍車両数に変化がないかぎり、実働率比がそのまま総稼働率比となります。これが87.4です。

この2つの数字から次のことが言えます。

運転手の賃金は2019年度の水準まで持ち直しています。

しかし、事業者の営業収入は実働率が低いままなので82.1%程度です。

1乗車輸送収入(客単価)、実車率はほぼ同じ。

要するに、1台1台は2019年の実績まで回復しているのですが、運転手不足から実働率が上がらない、といった状況です。実働率、要するに運転手が増え稼働台数を増やすことが各社の課題になっています。

日車営収を下げる原因について

個別に見て行きます。

まず、日車営収は運転手ひとりひとりの「稼ぎ」です。これを押し下げる原因は

  1. 需要減少
  2. 供給過多
  3. 労働時間の短縮
  4. 客単価の減少
  5. 実車率の減少
  6. 運転手のモチベーション

などが挙げられます。6については、「働かないでいい人たち」もその一因になっています。

実働率を下げる原因について

次に実働率ですが、これは運転手不足が原因です。

実働率60%とは、100台のタクシーがあるのに60台しか動いていないということです。これを2019年の実績まで引き上げると会社の営業収入も100%になります。日車営収×実働数=営業収入だからです。

ただ、実働率は運転手不足だけが原因ではありません。シフトの組み方でも改善できます。隔日勤務で1台を2人で使用する、日勤で2台を3人で使用する方策により実働率を100%に近づけようとします。

しかしこれも、運転手がいるという前提での話なので、とにもかくにも運転手、運転手不足が原因ということになります。

運転手不足の原因

  1. 低賃金
  2. 長時間労働
  3. 危険
  4. ハラスメント・クレーム
  5. 個室での接客
  6. 社会的地位・将来性

これらが原因といわれています。しかし、個別に解決したところで応募が殺到するかというと、それも疑問です。

では、ひとつひとつ考えていきます。

1.低賃金

運転手不足の話になるといつもこの低賃金が理由としてあげられます。では、どれぐらいの賃金水準になれば運転手が増えますか?

タクシー運転手の賃金については、このブログでも何度か考察しました。そしていつも「歩合給制の功罪」ということに帰着します。

出来高(営業収入=客単価×回数)に、各社が設定した歩率を乗じたものが賃金になります。企業の生産性ではなく、運転手ひとりひとりの生産性に賃金が左右されます。さらに、曜日や時間帯、天候、景気にも左右されます。

私たちが慣れ親しんだ給料とはかなり違います。しかしこのような賃金体系なので入社してすぐに手取30万円以上も可能なのです。求人広告にも「月給35万円以上可」と表現されています。確かに「可」なのです。

このように、電算型賃金のような生活給の思想がないため、事故や免停になれば生活の保障もない。それら生産性も運やツキにも左右される。長時間働ける体力も必要になります。

ですから運転手の賃金に幅があって、最低賃金17万円~60万円という差がでます。このように、高収入の可能性があるにしても、最賃にもなります。平均すると発表されているような数字になるのでしょう。そしてこの非常に分かりにくい賃金、それも問題だと思います。

そういったことを含めて、意識的、思想的にもひくい賃金です。

2.長時間労働

賃金が運転手の生産性に左右されることは上に書いた通りです。

その賃金=客単価×回数です。回数を増やす、そのことが長時間労働を誘発します。だから、労働時間の上限に制限をかけています。自らの生産性に左右されるので、自らが残業をする心理状態になります。

足切(ノルマ)も長時間労働を誘発する原因です。確かに他の産業よりも長時間労働になっています。

3.危険

交通事故と背中合わせです。それを考えると怖くて出来ませんよね。オフィスで工場で店舗で仕事をしていて、人を怪我させたり命を奪う、なんてことは皆無です。しかし運転手は常にその危害性ことがつきまといます。

4.ハラスメント・クレーム

利用者からのハラスメントです。カスハラと短縮されたりします。利用者からのハラスメントが起きる三大原因が以下の1~3です。

  1. 地理不案内
  2. 接遇の悪さ
  3. 料金

こういったことを起因とするクレーム、ハラスメント、そして運転手への暴行、強盗がなくなりません。

交通事故の危険性と、乗客からの危害、この劣悪なる職場環境が運転手の離職の原因です。そして運転手不足の原因でもあります。

5.個室での接客

そもそもの話なんですが、運転が好き、そして、接客が好き、という人がそんなにいるとは思えません。接客業はできる人とできない人がいます。

運転が好き、という理由だけで入職すると、接客でのトラブル、クレーム、離職、そういった流れになります。

運転しながら接客する、むつかしい仕事、そう考える人も多いはずです。

6.社会的地位・将来性

社会的地位を気にする人もいます。というか、社会的地位ってなに?と思うのですが、最近では「底辺かどうか」なんて話題になりました。運転手自身がそう思っている場合もあります。

一例を出すと、「冠婚葬祭には来ないでください」といわれ、理由を聞くと「親族にタクシー運転手していると分かるのが嫌だ」と。

あるいは、ナイト専門の人が「昼間だと近所の人や知人友人に会うかも知れないので」と。エッセンシャルワーカー、公共交通とはいえ、自慢できる職業ではない、という人もいるということです。

また、将来性はというと、下の図のように年齢とともに賃金格差が生じ、年齢とともに事故の危険性も増します。賃金も歩合給である限り、上限があります。それは個人事業者になっても同じことです。

年齢別年収グラフ タクシー運転手 全労働者

齢階級別月間給与の比較(全国ハイヤー・タクシー連合会の資料より作成)

楽して稼げますか?タクシーの運賃値上げで考えたこと – 道中の点検

運転手不足は解決できますか?

これまで書いてきたように、賃金だけでは運転手不足は解決しません。この国全体が労働者不足になっているのではないのでしょうか。そういった中で、自動車運転従事者に就きたがらない人が多いのではないでしょうか。

労務倒産も増えて、その結果として合併事案も増えていくでしょう。大きい企業はさらに大きくなります。独占化寡占化が進むはずです。大企業の内部補助による地方のタクシーの運営、という方法になるかもしれません。

あるいは、公共交通機関として官民で運営するようになるのでしょう。あるいは過疎地や周辺部の街は見捨てられ、コンパクトシティ、都市部への移住が推し進められるのかもしれません。

まとめとして

この地方の豊川市、田原市は、利用者の減少(それは行動変容が進んでいることと地域交通の多様化だと考えています)から、日車営収も低いままです。低賃金が運転手不足に拍車をかけながら、一時的な部分的な供給不足を引き起こしています。

蒲郡市は、観光地ということもあって、季節やイベント時、時間帯によっては圧倒的にタクシーが足りない状況に陥っています。コミュニティバスを増設したとしても、平日午前中は待たないとタクシーが来ない状況です。

新城市も、日中の実働台数が4〜6台、夜間は22時までで2台という稼働状況です。広い地域ですので、コミュニティバスや自家用有償輸送などで、なんとかやりくりしている、ようです。あるだけまし、なのでしょうか。

東三河地区においても、このような地域ごとに違っています。唯一解では解決しません。地域ごとに考えても最適解は見つからないかもしれません。

そうなると、事前確定運賃・経路による完全配車化による運行、自動運転車両の有人運転、客席の完全分離化、そしてその先の自動化を加速しなければ、地方の移動はいよいよ困窮化し、見捨てられるのかなあ、なんて考えています。

タクシーに未来はあるのでしょうが、その未来は従来のものとはちょっと違ってくるはずです。特に地方においては、若い力が必要になるはずです。都会はこれまで通りかもしれません。たぶん、きっと。

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