運賃値上げと運転手の賃金について
タクシー運賃値上げと運転手の賃金について、経営者はこういうでしょう。
「運賃が上がれば当然営業収入も上がる。したがって賃金も上がる」
運賃と賃金の微妙な関係
タクシー運転手の賃金は歩合給なので、
①30,000円の売上(30,000円分の運賃)×歩率=賃金
20%運賃が値上がりした場合
②36,000円の売上(36,000分の運賃)×歩率=賃金
歩率を50%としたときに
①=15,000円
②=18,000円
賃金も20%上昇するということです。
経費と賃金の微妙な関係
原価構成比の73%%が人件費なので、運賃が上がればほぼ同じようにコストも上がります。
①だった賃金という人件費が②になります。ただし、燃料費はほとんど差がありません。
図Ⅰは運賃と賃金の単純な関係を図式したものです。
値下げしたとしてもそのままスライドして経費も下がります。運転手の労働力に収益を依存し分配率も高くなる、それが労働集約型と言われる業態の特徴です。
足切の設定と最低賃金
しかし、ある点において人件費のほうが上回ります。それが図の赤く色付けした欠損部分です。
それは最低賃金のポイントでもあります。営業収入に関係なく最低賃金は支払わなければならないからです。
最低賃金×労働時間/73%(73%はタクシー業界の人件費の原価構成比です*1)
として
1,000円×170時間=170,000円
170,000/0.73=232,877円
この232,877円が最低ラインということになるのですが、こんな低い「足」を設定しているタクシー会社はないでしょうね。
*タクシー会社が最低賃金を上げるのを反対したり、値上げの理由にするのは、最低賃金補償をする運転手が多くなっているからだとも言えます。
経営下手の低い歩率
ただ、同一交通圏同一運賃なのに、タクシー会社によって足も歩率も違うのは、経営が下手なのか、ケチで儲けすぎているのか、どちらかなんだろうと、こうして書いていて思っています。
おそらく、運賃も右に倣えなら、賃金も右に倣え、という大雑把な経営をしているから・・・・・・、かなあ、なんて考えていますが?
そうでないことを祈っています。
賃金は上がるのか
さて、本題、運賃値上げと運転手の賃金ですが、値上げによって私たちの賃金が上がるのでしょうか?
1.これまで通りの利用者数と距離が見込める
ということであれば、歩合給ですので、上の図のように賃金上昇をみます。
2.客離れは起きないか
価格弾力性が低い、という定説に拠れば、変化はないでしょう。それに値上げが12月の繁忙期になりますので、感じさせないかもしれません。そしてアフターコロナ禍下での年末ですので、供給不足が予想されます。
仮に、客離れが起きたとしても、値上げの申請理由が「利用者減少」で、その分を見込んでいるのでしょうから、例えば値上げ率が20%として、営業収入がマイナスになる、ということも考えにくいのかなあ、と思っています。
それも、運転手のがんばり次第、と結論つけられそうです。
歩合給と知恵の結晶
「運賃が上がれば当然営業収入も上がる。したがって賃金も上がる。」として、結局、「あなたたちのがんばり次第」ということになります。
賃金も自己責任ということです。そして、タクシー事業者はいかに稼いでくれるか、ということに知恵を使います。
その「知恵の結晶」と言われるタクシー業界の賃金制度、その歩合給制こそが、運賃も賃金も分りにくくしている元凶だと、思った所で、運転手も業界も拘泥してしまっているようです。
そもそもですが、公共という職業に歩合給は相応しくないと思っています。